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第1章 ピンホールカメラの仕組み


【1.ピンホールとは】

  ピンホール(針孔)とは、文字通り、針の先で開けたような小さい孔(あな)のことです。ピンホール写真に使う、ピンホール(針孔)の大きさは、孔と、像を写す感光材料(フィルムや印画紙など)との距離により、違いますが、一般的には、0.2mmから0.5mm位の直径の孔を良く使います。
 普段、皆さんは写真を撮る場合、レンズが付いたカメラを使います。レンズつきフィルム、コンパクトカメラ、一眼レフ、大型カメラ、更にはデジタルカメラでも、全てレンズが必要です。しかし、ピンホールカメラとは、そのレンズ自体を使いません。初めに書いた、小さい孔がレンズの代わりになっています。孔ということは、そこには空間があるだけ。地上ならば、空気しかありません。では、どうして、そんな仕掛けで写真が撮れるのでしょうか。
     

【2.ピンホールだけで、なぜ写るのか】

  まず初めに、なぜ物は見えるのでしょうか。太陽光などの自然光、照明などの人口光など光が物体に当ると、散乱という現象が起きます。簡単に言えば、いろいろな方向へ光が反射されます。この時、物体の表面を構成している分子によって、特定の波長以外の光を吸収する性質があるので、特定の波長の光(ある色の光)だけ散乱されます。このために色が付いて見えるのです。 (光とは、電磁波という波に属しています。)
 図1を見てください。木の葉や枝に当った光は、沢山の方向に反射されます。しかし、ピンホール(針孔)を置くと、箱の内側には、その孔を通ることができた、ひとつの方向の光しか通れません。つまり、ある枝から反射された光は、箱の奥に置いたフィルムには、フィルムのある一点にしか届きません。つまり、木の様々な部分の点から反射された光は、ピンホールという「光のふるい」にかけられることによって、フィルム上に届く場所がそれぞれ対応して決まります。 全体で見れば、180度反転された、倒立した木の画像がフィルム上に作られることになります。これは、レンズで像を作る場合とは、違う仕組みです。

 

図1 ピンホールカメラによる画像の作られ方

 

【3.レンズではどうして写るのか】

比較するために、レンズではどう写るかを考えましょう。簡単にするため、凸レンズ1つで考えます。(図2参照)
光はガラスを通過するとき、入る角度によって、ある決まった方向に曲げられます。これを屈折といいます。レンズは、その独特の形のため、レンズに光が入った位置により、曲げられる方向がそれぞれ決まった角度に変り、レンズの反対側のある一点に集中する性質があります。この点を焦点といい、集中することを焦点を結ぶと言います。

ある木の一点から反射された光は、レンズ表面のあらゆる場所に届きますが、それが、屈折により、裏側の一点に集中し焦点を結びます。木の他の様々な部分から反射された光も同様にレンズで屈折されますが、それぞれ、フィルム上には対応した別々の場所に焦点を結びます。
全体で見ると、図1と同じように、180度逆向きになった、画像がフィルム上に作られます。

【4.レンズとピンホールでは何が違うのか】

大きい違いがふたつあります。ひとつは、レンズでは、レンズ全体に当った反射光が、一点に集中されるので、大変強い光(光の量が多い)がフィルム上に届くということです。フィルムや印画紙という感光材料は、光の強弱を化学変化で画像に変換して作りますので、一定以上の光の量が必要です。(その反応の速さを感光材料の感度といいます)
同じ感度の感光材料なら、レンズの方が、はるかに短時間で、その化学変化を起こさせるために必要な光の量を与えることができます。反対にピンホールでは、感光材料の一点に来る光は、ようやく小さい孔を通過してきた、わずかな光(図1では一本の光)しか来ませんので、同じ化学変化を起こさせる為には、長い時間、弱い光を当て続けねばならないのです。 

ふたつ目の違いは、レンズは焦点を結ぶが、ピンホールには焦点が無いということです。レンズの焦点は、撮影される物(被写体といいます)とレンズとの距離に応じた、反対側の位置に焦点を結びます。 図2は、焦点を結んだ例しか、線を描きませんでしたが、木より遠い被写体の反射光は、反対側のもっとレンズに近い場所に焦点を結び、近い被写体のそれは、フィルム面より、もっと遠くに焦点を結びます。 つまり、フィルム上で、焦点が合う被写体は、決まった距離の被写体(この場合は木)だけで、それより、近い被写体や遠い被写体は、フィルム上には、焦点が来ないので、ボケた画像になります。
反対にピンホールでは、どの距離の被写体の像もボケずに、フィルム上で画像を作ります。(箱の深さより短いものは除く) 

つまり、ピンホールの大きな特徴は、
(1)近いものから遠いものまでボケずに写すことができる。
(2)フィルムに届く光の量がとても少ないので、写す時間が長くかかる。
という2点です。

実際同じ条件で撮るとき、(例えば日中の明るい戸外)普通のカメラでは、1秒の1/100という短い時間で撮れても、ピンホールカメラでは、数秒から数分もかかります。

また、補足説明ですが、ピンホールでは距離に関係なく、ボケない写真が撮れると言いましたが、レンズのような鮮明な画像はできません。なぜならレンズは光を強制的に曲げて、焦点という小さい点に集めることができますが、ピンホールの場合、フィルム面上には、点ではなく、小さい円の集まりになるからです。 これはピンホールが、点ではなくて実際に大きさのある孔のためです。それならば、限りなく小さいピンホールにすれば鮮明になるか、と言えば、そうはならず、ある大きさより小さくすると逆にボケが大きくなります。 これは、光が波の性質を持つためで、回折現象といいます。

でも、実はそのピンホールカメラ特有の柔らかいボケが、ピンホール写真のすばらしさのひとつでもあるのです。 弱みを強みに変える、逆転の発想ですね。

 これも特徴に加えましょう

(3)ピンホールではレンズほど鮮明ではないけれど、特有の柔らかい画像になる。

 

図2 レンズによる画像の作られ方

公開:2002.5.16 更新:2010.7.7

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