大きい違いがふたつあります。ひとつは、レンズでは、レンズ全体に当った反射光が、一点に集中されるので、大変強い光(光の量が多い)がフィルム上に届くということです。フィルムや印画紙という感光材料は、光の強弱を化学変化で画像に変換して作りますので、一定以上の光の量が必要です。(その反応の速さを感光材料の感度といいます)
同じ感度の感光材料なら、レンズの方が、はるかに短時間で、その化学変化を起こさせるために必要な光の量を与えることができます。反対にピンホールでは、感光材料の一点に来る光は、ようやく小さい孔を通過してきた、わずかな光(図1では一本の光)しか来ませんので、同じ化学変化を起こさせる為には、長い時間、弱い光を当て続けねばならないのです。
ふたつ目の違いは、レンズは焦点を結ぶが、ピンホールには焦点が無いということです。レンズの焦点は、撮影される物(被写体といいます)とレンズとの距離に応じた、反対側の位置に焦点を結びます。 図2は、焦点を結んだ例しか、線を描きませんでしたが、木より遠い被写体の反射光は、反対側のもっとレンズに近い場所に焦点を結び、近い被写体のそれは、フィルム面より、もっと遠くに焦点を結びます。 つまり、フィルム上で、焦点が合う被写体は、決まった距離の被写体(この場合は木)だけで、それより、近い被写体や遠い被写体は、フィルム上には、焦点が来ないので、ボケた画像になります。
反対にピンホールでは、どの距離の被写体の像もボケずに、フィルム上で画像を作ります。(箱の深さより短いものは除く)
つまり、ピンホールの大きな特徴は、
(1)近いものから遠いものまでボケずに写すことができる。
(2)フィルムに届く光の量がとても少ないので、写す時間が長くかかる。という2点です。
実際同じ条件で撮るとき、(例えば日中の明るい戸外)普通のカメラでは、1秒の1/100という短い時間で撮れても、ピンホールカメラでは、数秒から数分もかかります。
また、補足説明ですが、ピンホールでは距離に関係なく、ボケない写真が撮れると言いましたが、レンズのような鮮明な画像はできません。なぜならレンズは光を強制的に曲げて、焦点という小さい点に集めることができますが、ピンホールの場合、フィルム面上には、点ではなく、小さい円の集まりになるからです。 これはピンホールが、点ではなくて実際に大きさのある孔のためです。それならば、限りなく小さいピンホールにすれば鮮明になるか、と言えば、そうはならず、ある大きさより小さくすると逆にボケが大きくなります。 これは、光が波の性質を持つためで、回折現象といいます。
でも、実はそのピンホールカメラ特有の柔らかいボケが、ピンホール写真のすばらしさのひとつでもあるのです。 弱みを強みに変える、逆転の発想ですね。
これも特徴に加えましょう
(3)ピンホールではレンズほど鮮明ではないけれど、特有の柔らかい画像になる。